BA BLOG

コストを徹底的に削減する:②コスト削減にこそ「戦略」が重要

では、コストを実際に下げていこう。前述したとおり、今のコスト状況に関わらず、簡単な取組ではない。しかし、確実にコストを下げたい。そう、成功させたい。そうであればコスト削減の成功要因を考えることが必要だ。

成功要因とは、どういうものか。戦略系のファームが、コスト削減に手を出すようになって久しい。社長や経営企画部門主導のコスト削減プロジェクトに入り、各部門のコスト削減機会を示すというもので、その一環としてIT部門もコスト削減機会の提示を求められる。

筆者が知っている多くの手法は、まずコストの集計値を見て、大物に焦点を当てる。焦点があたったコストの支出の議案書や支払伝票を一枚一枚見て、一つ一つのコスト削減機会を抽出して、もっと安くなるはずだと言う。戦略系ファームは、こうして出したコスト削減機会に対して、成功報酬として下げたうちの何割かをもらうこともあるそうだ。

こういう進め方は非常にオーソドックスであるが、社長や経営企画の名のもとに実行するため、下げた数字を作らないとその人たちの名前に傷をつけてしまうことになる。だから、IT部門などが少しでも「それは無理ですよ」と言ったりすると「抵抗勢力」のレッテルを張られてしまう。2000年代に政治の世界で流行ったやり方だ。いずれにしても、経営と戦略系コンサルティングファーム双方で、下げたという成果を無理矢理作りに行く。

IT部門のコストも、理由がありコストが成立している。歴史があるのだ。当然、全てに歴史と理由があるわけではないが、多くの場合には歴史と理由があり、おいそれと下がるものではない。でも、数字は作らないといけないから、飲み会・グリーン車・研修のコストカット、ベンダーの単価の一律カットなど、無茶だけど支払いに速攻で効かせる方法で数字を作りに行く。

こうした腕力で進めるコスト削減は、しばらくすると元に戻ってしまう。進める側の戦略コンサルティングファームは、一気呵成にやってしまおうといって、成果を急ぐ。彼らは稼ぐ効率を追い求めている集団であり、成果を出さなければ収入が入ってこないため、しばしば「雑に」コスト削減をやってしまう。下がってないけど、下げたように見せかけるとでも言っていいだろうか。

良く考えて見てほしい。以前と同じ仕事をしている人に対して、一律で単価削減をすると、もともとの価値がある人は他のところに行かなければならない。下げた分の価値しかない人が来るため、効率が悪くなるのは当たり前だ。単価は下がってせいぜい10%だ。しかし、作業効率は平気で1/2、1/3になる。精通していないからだ。また、同じ人を残して単価低減を行ったときも、ベンダーは利益が少なくなっているので、ベンダーの株主からの圧力でもう一度価格交渉がやってくる。結局、価格は元に戻るのだ。

筆者はこれをダイエットに例えて、リバウンドと呼ぶ。一時的には食事を抜いて無理矢理痩せることは出来るだろう。しかし、ダイエットを成功させるためには、食生活、生活習慣、運動習慣をトータルで改善し、継続していかないといけない。場合によっては、趣味や価値観を変えないと、成功しないケースも多いのではないか。一週間絶食して痩せました、ではすぐに元に戻ってしまう。

同じことはコスト削減にも当てはまる。一時の勢いでコストを下げる。無理矢理雑誌をとらなくする、ベンダーとの飲み会を無くす、ベンダーの単価を一律10%削減する。短期のダイエットと一緒であり、体質は何も変わらず、見かけのコストだけしばらくは下がっていく。お察しのように、これでは定着はしない。要は体質改善が必要なのだ。

体質改善は短期でできるものではない。そう、コスト削減には戦略が重要なのだ。最も必要なのは、戦略なのだ。すなわち、全体感を持ち、必要な手を一手一手進めることなのだ。繰り返すが、コスト削減の成否は、コスト削減に戦略があるかどうかにある。

戦略を持つということは、コスト削減を進める際に、本格的な取組になるよう、きちんと進め方や削減のしどころを構想すると置き換えることもできる。コスト削減戦略と戦術をきっちり作るのだ。もっとも戦略だから中長期視点で考えるというだけではコスト削減という取組の性質上、それだけでは不十分である。利益に真水で効いてくるので、経営の立場からは成果はやっぱり早く得たい。また、進める側のモメンタムの問題もあるから、成果を出して周囲から認められるようにして、という実行上の工夫も必要である。だから、お勧めしたいのが、短期的な視点、中期的な視点、長期的な視点をそれぞれ分けて考えることである。

短期的とは、一年以内に成果が出そうな視点である。多かれ少なかれ無駄はあるもので、こうした無駄を排除するのは短期でできる。一方、中期的というのは、数年で成果が出そうなものである。これは、一気には変えられないものの徐々にでも変えることが出来れば効率が上がるものである。長期的というのは、10年程度の視野で進めるべき、戦略転換を示す。

情報システムとは、人が資産を作り上げて、運用する。従って、そこには人があり、業務があり、ITの資産がある。人の仕事はすぐには変わらない。また、資産の入れ替えは償却が終わるまではなかなか出来るものではない。新たな投資が必要となることもある。だから、短い目線から長い目線までを組み合わせることが可能となるのだ。逆の言い方をすれば、ITには歴史があり、理由があるから、どんなにばかげて見えることでも簡単に下げることはできないのだ。

取組は当然、短期的なことから進めていくべきだ。短期的にやることは、繰り返すが、無駄をなくすことである。どんなところでも無駄はある。安いところは無駄が少なく、高いところには無駄が多い傾向は確かにある。しかし、安いからと言って無駄がないかと言えば、それはそれで違う。人間がやることなので、多かれ少なかれある。要は、どれくらい許容しているかという程度問題なのだが、その程度の基準値をどこに置くか、で削減の規模は変わってくる。

例えば、ライセンスの重複、PCの数の余剰(社員数よりも多い)、全国や世界の事業所への高頻度出張などはわかりやすい。重複、余剰、高頻度と言ったものは、余裕度の問題である。規準によってはゼロにすることができるし、増やすこともできる。要は経営が余裕度をどれだけ許容するかの問題で、コストの上げ下げをコントロールできる。

次に考えるのは、中期的に生産性を上げることを考える。情報部門がやっていることはモノづくりとオペレーションであり、現場作業も相当ある。開発作業は、大工の仕事に似ていると言われることもある。運用作業は、電車などの設備保全や電車の運行に似ているともいえる。安心・安全が大前提なのであり、緻密に組み立てられていることが多いので、短期で変わることはない。

生産性を上げるには、部門の業務改革をするのだが、なかなかすぐに変えられるものではない。安心、安全を落とすことがない中で、標準化、平準化、簡素化、省略化、自動化、分散化、集中化といった業務改革手法を駆使して、仕事を改良していく。

最終的には、人が仕事を変えなければ成果は出てこない。単価の高い人(ベテラン)が、新たな仕事では不要となるようにしなければならないし、単価の低い人(若い人)中心で仕事が回るようにするようにしなければならない。ここまでを達成しないと生産性が上がったとは言えないのだ。

長期的には、情報システムの構造改革を考える。情報システムには組織的構造とシステム的構造がある。

組織的なものは、デリバリーモデルと呼びたい。委託構造といってもいいかもしれない。すなわち、外部のパートナーを使う範囲と内製化の範囲を変えること、外部のパートナーを変えることである。今はオンショア・ニアショアが盛り上がっているが、昔はオフショアが盛り上がった時期があった。そういった、作る場所を含めて、どこで誰がやるのがいいのかを考えることだ。

システム的なものだと、最近だとクラウドだ。インフラストラクチャーをどうしていくことが効率的なのか、そうした効率的なインフラに移すことにある。また、アプリケーションの世界の伝統的な議論もまだまだなくなったわけではない。すなわち、パッケージがいいのか、カスタマイズしたらいいのか。いずれにしても、仕組みが一番うまく回る形に変えていく。

長期的な施策とは、言い換えれば情報システムそのものと部門のデリバリーモデルを構造改革する。ある意味、理想形の情報システムとIT部門に作り替えることだ。

テクノロジー系のコンサルティングファームは、大抵すぐ構造改革の案を持ってくる。「ウチの〇〇デリバリーセンターを使ってコスト構造を変えていきましょう」など。こうした施策は、効率化が出来るように映る。よって経営受けがいい。しかしながら、即効性があるものではない。また、生産性が十分に高くないところへ持っていくと、非効率をそのまま外に持っていくことにもあり、効果が創出しきるかと言えば、改革の重さの割に成果は出にくいことも多い。途中で頓挫することだってある。だから、長期策を考えるときは、決心が重要だ。必要性を吟味し、実行の難易度をなるべく正しく想定し、費用対効果を生むことができるか熟慮する。上述の通り、戦略変更となるのでおいそれと変えるべきものではない。

要は、無駄が少なく、業務が効率化されたうえで、仕組みの再配置を考えていくべきなのだ。考えていく順番が重要なのである。こうした3つの塊を筆者は、短期的な施策は止血、中期的な施策は業務改革、長期的な施策は構造改革と呼称していた。以降で、一つ一つをみていこう。


プロフィール

宮本 認 Mitomu Miyamoto
BA参画前は、某外資系ファームで統括を務める。17業種のNo1/No2企業を経験した異色のIT戦略コンサルタント。

年別アーカイブ