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ITの基本戦略を設定する:⑤日本のIT部門は基幹系を中心とすべきなのか?
日本のIT部門は基幹系を中心とすべきなのか?
まずは、IT部門がもっとも重視する基幹系について考えたい。基幹系というのは、受発注、サプライチェーンのシステムというよりかは、すなわちプロセスの組立というよりかは、本来的にマネジメントへの貢献のために存在するシステムである。この点、日本企業は誤解をしていることが多いような気がする。以降で、その誤解について説明をしていこう。
マネジメントへの貢献というのは、その会社がどれくらいマネジメントに対して強度をもってやっているかに、かかっている。マネジメントの強度とは、予算と業績の管理の強さだ。言うなれば財務経理部門の強さを示す。違う言い方では、財務経理部門が利益を生み出す源泉と考えられているか、単なる集計部門と考えられているかだ。前述したが、財閥系にはそれぞれ経営の特徴があり、同じ総合商社の経営でも、主計中心に経営を組み立てるところもあれば、事業部門中心に組み立てるところもある。この違いは、情報システムの存在意義の大きな分岐点がある。すなわち、IT部門が向くべき方向とシステム化のアプローチを決定する。要は、IT部門が誰を向いて働くかを決める。
説明には、海外企業を例にとるとわかりやすいので、海外企業を例で解説したい。海外企業ではCFOは会社の中で、No2である。彼らは非常に強い権力を持っている。では、CFOがやりたいことは何か。それは、リアルタイムで、グループ全体の、細かい業績の把握と、業績アップのための課題を把握することにある。だから、ERPに代表される企業全体の業績データを管理できるシステムを、グループ共通で(なるべく1インスタンスで)導入し、パイプライン(営業進行案件)や受注残、経費の消費状況などを細かく解析したがる。CFOのスタッフ、すなわち解析部隊は結構な数がいることが多い。この解析結果を受けて、CFOはCEOに、「受注を急げ」とか「経費を使うな」といった進言をし、業績を調整する。CEOは株価を上げることを第一に考えている。だから、毎日、業績を上げるための進言をしてくれるCFOの存在は欠かせない。CFOがNo2であるのは理由があるのだ。彼らのリアルタイム・グループ全体・詳細な解析結果によって、業績は大きく左右される。だから、こうした進言を整えるためのERPの導入や集計・分析するためのダッシュボードの導入には、非常に大きな予算が付く。また、導入にあたっては、現場の利便性などはほとんど考慮されない。ERPで情報収集することでCFOが役立つと思ったデータは、各現場では有無を言わさず「入れなさい」と言われる。文句や抵抗をしようものなら、雇用は保証されない。そういう恐怖感は少なくとも持たせる。こういうシステム導入アプローチをとる。すなわち、財務経理部門が強い企業であれば、基本的にITは、経営を見て働くこととなる。経営に必要なタイミングで、必要な粒度と鮮度の情報を提供して経営判断を支える役割こそが、まず第一義的に達成することとなる。そう考えると、ITは共通/集中的でなければならないし、IT組織も中央集権的に構築されなければならない。要は、ユーザーは現場ではないのだ。
逆に、財務経理部門がそう強くはない企業であれば、大切なのは現場になる。主力な現場を定め、現場が最大のパフォーマンスを発揮できるようにしていく。大切なのは、拠点、顧客、取引先ごとの仕事や条件の違いに精通して、業務プロセスの違いに精通する。そして、何か課題やトラブルが起きた時、現場にとって、顧客にとって、取引先にとってその場を速やかに何とかすることが大切になる。現場の仕事を止めないこと、現場が不快感を感じないような業務にすることが大切である。よって、ITは個別/分散傾向が強まるし、IT組織も現場支援型で分権的に作られていくべきである。こうした現場重視の傾向が強い企業では、上述のような海外企業のようなCEO&CFO主導の経営は「憧れ」に過ぎない。例え、プロ経営者がやってきて、リアルタイム・グループ全体・詳細な集計と解析を求めたとしても、経営者より上位である「理念」のレベルで相いれないこととなる。今、日本においては、プロ経営者が試練の時を迎えているが、財務経理主導で経営を行う軸が変わっていないことがその要因ではないかと筆者は分析している。そうした場合、IT部門は、理念に基づいて行動するか、プロ経営者に寄り添って、理念自体を変更するか、決断をしなければならない。マネジメントの重心とは、それくらい重大な問題なのだ。
言うなれば、多くの日本企業で経営は強くはないのだ。誤解を恐れず言えば、日本企業の経営者は株価よりも大切なものが、やっぱりある。株価が最も重要であれば、上記のようなスタイルに変えざるを得ない。また、日本の経営者になれるような聡明な有能な人が、本当に株価を上げることのみに専念していれば、日本の株式市場のこの20数年間に及ぶ低迷は、起こりえないと筆者は思う。
これは、良い悪いの問題ではない。ハーバード大学の竹内教授は、Wise Leaderというリーダー像を唱えていらっしゃるが、日本のリーダーにはこのWise Leaderが多いそうだ。従業員により崇高な存在意義を示し、誇りとやる気を引き出し、社会的に見て正しい選択をしようとする経営者が多いのだろう。昔、外国人上司と酒を飲みながら話したことがあるが、日本企業の経営者は「正しい意思決定をしようとする」のに対し、海外企業の経営者は「正しく意思決定しようとする」違いがあるそうだ。正しいとは、Wiseな決定をしようとするということだ。一方、正しくとはLogicalにということだろう。
欧米の経営者は、株主、すなわち大金持ちと年金運用をしている全国民に責任を負っている。一方、日本の経営者は、従業員に責任を負う比率が高い。これは、社会の違いであって、経営者の能力の違いではない。しかし、情報システムと大きな関係を持つマネジメントの強度の違いは生まれる。そういう現実の中で、ITはITの基本戦略を立てねばならない。