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ITの基本戦略を設定する:⑥日本企業は基幹系をITの中心に据えてはいけない
日本企業は基幹系をITの中心に据えてはいけない
こうした日本と海外企業の違いは、IT的に見ると、基幹系システムの重要性の違いとなって現れる。これまで見てきたように、海外企業において、基幹系システムとは経営そのものの中に、まさに基幹として組み込まれる。最近、Core Systemという言い方も良くするようになってきた。Core Banking Systemと言えば銀行の勘定系を示す言葉だ。しかし、日本の経営者はどちらかと言えば、人中心に考えてしまう傾向が強く、自分が経営する意義は、従業員にやる気をもって働いてもらうという傾向が強い。要は、日本と海外企業では経営者の情報感度が違うのだ。
「折角ERP導入にお金をかけたのに、まだまだうちは情報を使えない」という経営者とは数多く出会ってきた。当たり前である。海外企業と違い、数字を経営に使うようにはなっていないのだ。CFOという体制を、名実ともに置くことができるだろうか?経理部門や経営管理部門は、従来通りのままではないだろうか?
もっと大きな違いは、経営の回転数(Velocity)だ。海外企業、特に大手ともなれば、業績管理は週次である。週次で、世界の東端である日本から締めが走り、地球の自転と合わせて、アメリカ西海岸で締まる。大手金融などは、もっとダイナミックで日次で締めると聞いている。業績管理の締めの回数は、経営が経営判断を行う回数でもある。海外企業は少なくとも、年間50数回は、経営者がPDCAを行う。しかしながら、多くの日本企業は月次ではないか?日本と海外企業では、経営の回転数が4倍以上の開きがある。それは、経営者の報酬も違うはずだ。
業績管理とは、ある意味決算である。もっとも、四半期や年次の決算とは違い、制度的なものではないので、経営に必要なものだけを締めることになる。日次、少なくとも週次で決算を行うとなると、それはシステムでやらざるを得ない。この経営の回転数をマネジメントの中心に据えることが、基幹系中心にITを考える背景となっている。
こうした高回転経営は、日本の経営にはなじまない。日本の経営者は、経営をしている回数が海外企業に比べ、圧倒的に少ない。情報を使う頻度が少ないのだから、情報を使えると言えるわけがない。使えていないとわかっていながら、使う頻度を上げることを考えない。いや、そういうことを思いつかない。思いつくような必要がないのかもしれない。いずれにしても、それが、日本の経営者なのである。もっとも、思いついたとしても、今さら、経営の枠組みを変えることは厳しいのかもしれない。
基幹系を基幹系らしく使うことは、日本企業には無理なのだ。日本企業には、高価な基幹系を入れることは間違っている。なぜなら、経営者こそが基幹系システムのユーザーなのだが、日本の経営者は高価な基幹系システムが必要となるほど情報を使わないし、使えない。経営者は自分が基幹系のユーザーであるということに気付いていないのだ。自分のためではないと思うので、その価値を肯定することもない。
誤解をしていただきたくはない。筆者は「基幹系システムは非常に重要である」と、読者である皆さんと同様に理解していると断言できる。基幹系システムとは、伝票、台帳、帳票である。この伝票、台帳、帳票が作成されてないと、お客様にモノやサービスをお届けすることが出来ないだけでなく、請求書も発行されず、回収さえできない。会社の中に、過剰在庫や、届かない商品など、不合理が放置される状態になり、いきなり会社が傾くかもしれない。いわゆる、ミッション・クリティカルなシステムである。
しかし、申し上げたいのは、本来ならば経営者が経営の回転数を上げることで価値を出して欲しいのだが、日本企業の経営者は、このシステムで価値をもたらすことは、ない。海外の経営者のようには、日本の経営者は経営をしないからだ。だから、日本の経営にあったなりのコストにするということが、当たり前に必要なのだ。
海外企業は、経営者自身がカイゼンを積み重ねる。だから、経営者のカイゼン活動のために、高価な基幹系システムを入れる。しかし、日本では経営者は経営をカイゼンするよりも、現場がカイゼンできる環境と士気を整えようとする。どちらがいい、悪いの問題ではない。日本の経営者の経営スタイルは違うのだ。
日本のIT部門は、基幹系システムを間違っても高価にしてはいけないのである。そして、基幹系システムにIT部門の投資や労力をかけようとしてはいけないのである。ここに大きくお金がかかっているのは、経営からしてみると、すなわちその重要性から鑑みると、ずれているのである。だから、いかにここにお金をかけないようにするかを、継続して、断続して、取組続けることでしか、この領域の評価は得られないのである。
日本企業のIT部門は、基幹系システムの重要性を良く知っているがために、基幹系システムに固執するところがある。しかし、これが様々な問題の根源の一つにもなっていると考えている。
基幹系内で様々なことを実現しようとし過ぎた。日本企業の情報システムの問題の一つは、個別化にあると述べているが、基幹系システムを中心に据えるあまり、個別化を基幹系システムの機能の中で実現しすぎてしまった。基幹系が本来役立つべき、経営の回転数を上げるためのシステムではなく、競争の激しい日本の経営環境の中で、正確に伝票・台帳・帳票を作成し続けるシステムとして、膨張しすぎてしまった。
結果として、基幹系システムが非常に複雑な仕組みになってしまった。ITの進化に対して、乗り遅れるシステムを作り上げてしまった。個別の局面では、費用対効果的に正しい判断の積み重ねだったのかもしれない。しかし、まさに「イノベーションのジレンマ」が起きてしまった。
日本人は良いものを作る。当たられた条件の中で、最高の努力をするのは、日本人の美徳だ。しかしながら、ITにはそういう発想が向かなかったということだと思っている。現代の複雑なITは、良いものを渾身で作り上げるのではなく、適当なものを適度に組み合わせることが向いていることが多い。日本人がやる日本企業のIT部門には、だからこそ、基幹系中心の戦略はとってもらいたくない。最大・最重要ユーザーの経営が使わない日本の基幹系には、良いものはいらないのだ。
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