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ITの基本戦略を設定する:⑦コア・ケイパビリティの強化への貢献がミッションの前提
コア・ケイパビリティの強化への貢献がミッションの前提
では、何をミッションとするのか。日本企業の場合には、消去法的だが、コア機能の組立、すなわちバリューチェーンのどこかを強化することが望ましいということとなる。経営が強みとするところ、競争優位とすべきところの強化に貢献することにこそ、存在意義がある。
コア機能は、製品・サービス(開発部門)か、営業か、生産・オペレーションかのいずれかである。「No1企業の法則」という本が昔あったが、そこでは「Innovative Product」「Customer Intimacy」「Operational Excellence」と呼んでいた。要は、優れた製品を世の中にリーチさせることで売上を稼ぐのか、営業が兎に角売り切るということで事業を成立させるのか、圧倒的な低コストオペレーションで利益をたたき出すのか、あるいはこれらのうちのいくつかを組み合わせるのか、である。IT部門にとっては、利益の源泉、すなわち強みの源泉に張るべきだし、逆に弱みにこそ注力するという発想もある。要は逆張りだ。しかし、このコア機能の選択は、IT部門のもう一つのミッションを定める。すなわち、どの業務・システムを強化するかである。
すなわち、コア機能は、IT部門が持つべきコア・ケイパビリティを決定する。予算や人材の配分を決定する軸となるのだ。当然、全部やるという発想はある。かつて、筆者がまだまだ駆け出しのころ、米国の大手化学企業のIT戦略の事例をくまなく勉強していた時期があった。非常に、IT戦略が良くできていたのだ。そのIT戦略は、今でも通じるくらい骨太な考え方に沿って作られているだが、その化学企業のIT戦略は、まさに上述の3つの戦略を同時並行的に推進するものだった。Innovative Productをどんどん出させるために、個人の生産性を最大化すべくKnowledge Managementを促進する、Customer Intimacyを向上させていくためにCRMを刷新する、Operational Excellenceを追求するためにe-commerceを積極的に進めるととともに、SCMを変え、Shared Service Centerを物流、生産技術、経理、人事、IT等の分野で創設するとともに上述のCFO主導のマネジメントを強化するためにERPを刷新するという、現代の経営改革手法を網羅的に捉えたものだった。因みに、この改革をやり遂げたCIOは、一つ格下の化学企業へ転身したことは言うまでもない。
トップ企業であるならば、上述の化学企業のように、すべての領域に人材と予算を張っていくべきだろう。トップ企業であるからには、そうした覚悟をもって挑むべきともいえるし、すべてに張れるからこそトップ企業ともいえる。しかし、そうではない多くの企業は、「日本のすごいIT部門」で見てきた流通業C社のように、割り切るべきである。C社の場合、Operational Excellenceの、しかも一部の店舗情報系機能に割り切って、ITとIT組織を再構築した。割り切りをやり切ったがゆえに、コスト面で大きな貢献をもたらし、ユーザーのやりたいことに極めて高速で対応できる、すごいIT部門となっている。
強調するが、コア機能を中心にITの構成を組み立てるのだ。例えば、営業が強いならば、顧客DBが統合されていない、情報が整っていないのは頂けない。製品力で突破を図るならば、サプライチェーンを整備するよりも、PIM(Product Information Management)を整え、売り切りモデルを構築した方が効果的な場合が多い。Operational Excellenceならば、調達DBを整備し、買い手の交渉力を高めることに注力していくべきであろう。いずれにしても、コア機能というのは、汎用品で戦うことが推奨しにくい領域である。なぜなら、コアであるがゆえに、汎用品が持っている情報や機能では足りないことが往々にしてあるからだ。ただ、汎用品でダメだというわけではない。うちは営業が強い、と思われていても、世の中のレベルから見れば、普通、あるいはそれ以下ということも往々にしてある。大切なのは、世の中全体で見たときのレベル感がITの世界では必要だということだ。
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